2025/08/17 08:15
風呂敷は、一枚の布でありながら、物を包む、運ぶ、敷くなど、多様な用途で使われてきた日本独自の伝統文化です。その歴史と、現代における新たな役割についてご紹介します。
風呂敷の伝統と歴史
起源: 風呂敷の起源は、奈良時代に遡ります。当初は「包み布」として、貴重品や衣類を包んで保管するために使われていました。奈良の正倉院には、当時の宝物を包んだ布が今も残されています。
「風呂敷」の名の由来: 室町時代になると、将軍足利義満が建てた大湯殿で、大名たちが風呂に入る際、他人の衣類と見分けがつくように家紋入りの布を使い、また湯上りにその上で着替えをしたことから「風呂に敷く布」という意味で「風呂敷」と呼ばれるようになったという説があります。
庶民への普及: 江戸時代になると、銭湯が庶民の間にも広まり、入浴道具や脱いだ衣類を包むために風呂敷が使われるようになりました。また、当時の商人たちは、屋号や商標を染め抜いた風呂敷で商品を包み、広告媒体としても活用しました。この頃には、火事の備えとして布団の下に風呂敷を敷き、いざという時に貴重品を包んで避難する防災バッグとしての役割も果たしていました。
吉祥文様と唐草模様: 風呂敷の柄には、それぞれ意味が込められています。鶴や末広がりの扇など、縁起の良い柄は「吉祥文様」と呼ばれ、慶事や贈答品を包む際に使われました。 また、「泥棒の風呂敷」というイメージが強い唐草模様も、実は代表的な吉祥文様の一つです。四方八方に伸びるつる草は「延命長寿」や「子孫繁栄」を意味する縁起の良い柄でした。どこの家にも一枚はあったことから、芝居などで泥棒が盗品を包む際に使われるようになり、そのイメージが定着したと言われています。
現代における風呂敷
高度経済成長期以降、紙袋やプラスチック製の袋が普及したことで、風呂敷は一時的に使われなくなりました。しかし、近年、その伝統的な価値と機能性が見直され、現代のライフスタイルに合わせた様々な形で再び注目を集めています。
エコバッグとしての活用: 環境問題への意識が高まる中、繰り返し使えて、コンパクトに持ち運べる風呂敷は、プラスチック製のレジ袋に代わるエコバッグとして注目されています。
ファッションアイテム: 伝統的な和柄だけでなく、モダンなデザインや、海外のデザイナーとのコラボレーションによる風呂敷も増え、スカーフやバッグ、タペストリーなど、ファッションやインテリアの一部として楽しまれています。
贈り物やラッピング: 贈り物を風呂敷で包むことは、相手への心遣いを表現する日本ならではの美しい文化です。瓶や箱など、物の形に合わせて自由に包める風呂敷は、オリジナリティあふれるラッピング材としても人気があります。
防災グッズ: 江戸時代のように、災害時に荷物をまとめたり、怪我をした際の三角巾として使ったりと、防災グッズとしても再評価されています。撥水加工が施された機能性の高い風呂敷も登場し、用途の幅が広がっています。
風呂敷は、日本の「もったいない精神」や「思いやりの文化」を象徴するアイテムです。一枚の布が、包むものの形や大きさに合わせて自在に姿を変える柔軟性は、現代の多様な暮らしにも寄り添う、持続可能な伝統文化と言えるでしょう。